• 竣工:
    2023年4月
    用途:
    専用住宅
    構造/規模:
    木造在来工法/地上2階建
    所在地:
    仙台市宮城野区
    撮影:
    中山保寛
  • 新建築住宅特集2023.06号掲載

「家族の変化を許容するヴォイド」
親の手を離れる年齢を迎える高校生から大学生までの4人の子供と夫婦の6人家族の住まいである。家族とは、子どもの誕生、成長、独立、親との死別など、絶えず変化を繰り返しながら生きている集団であり、この家族も近い将来、子どもの独立など大きな変化が起きる可能性が高く、それに柔軟に適応する住まいが求められた。
敷地は、仙台駅から東に700mほどの場所に位置する。敷地北側に歌舞伎「伽羅先代萩」の登場人物のモデルとなった三代藩主伊達綱宗の側室政岡の墓所(以下、政岡墓所)があり、仙台市中心部でありながら、恒常的に木々の茂る豊かな環境を享受することができる。一方で、南、東、西は、北側とは対照的に延焼ラインの法規制や建物が迫る。敷地周辺環境のポテンシャルを頼りに、家族構成の変化に対応できる寛容性の高い住まいを目指した。
そこで、敷地に対して南北方向に短冊上に3つのヴォリュームを設定し、防火壁と見立てたふたつの建築で中央のヴォイドを挟み、周囲からの延焼を受けにくい構えとした。これにより、準防火地域内でありながら敷地中央のヴォイドと政岡墓所に面してトリプルガラスの大開口の設置を可能し、断熱性能を担保しつつアクティブな関係を構築している。西側に建つ集合住宅の壁面をレフ板として、壁面から反射した陽光を主屋とヴォイドに入射させることを狙い、2層の主屋から低層棟へと徐々に勾配を変えて下がっていく断面構成として、その中に暫定的に家族の生活を落とし込んだ。現時点では、低層棟にコンパクトな子ども部屋を4室設け、主屋と低層棟の間のヴォイドはFRP折板で覆ったサンルームとしている。低層棟を分割する間仕切りは、間柱と合板をビスで留めたラフな設えとし、仮に、子どもが独立し同居する家族が減れば、それに応じて、撤去することが可能である。サンルームは、夫婦と子どもをひとつの住まいに帰属させつつ、それぞれが社会と自由に接続可能なおおらかな路地のような空間であり、建主夫婦は、子どもの自立と、それに伴う今後の住まいの変化を楽しみにしながら、まるで政岡墓所の四季の移ろいを眺めるように適度な距離で子供の生活を見守っている。

設計日誌