• 竣工:
    2019年2月
    用途:
    専用住宅
    構造/規模:
    木造在来工法/地上2階建て
    所在地:
    仙台市泉区
    撮影:
    小関克郎

あるものとあるものの境界面を考えるとき、それぞれの領域を明確に分けるマジックペンで引いた力強い1本の線よりも、墨汁で描いた予測不可能な滲みが生じるような境界が解け合う状態を探求したいと思う。
北側に建物を寄せ、南に整えられた庭と東西、北に壁面後退1mという都市計画で定められた一皮のあいまいな空地を残して建つ佇まいは、現代の住宅地のフォーマットとして定着している。 この南至上主義がもたらす風景の退屈さは、住まいに表と裏を作り出し、敷地との関係が至極単調なものにしていることに他ならない。 長命ヶ丘の家は、そのような単調な敷地と住まいの関係を変造し、家族3人がそれぞれの居場所を保ち、適度に距離感を生みつつ、互いの境界が解け合う住まいを目指した。大きな屋根に包まれたワンルームの中央に浴室、トイレ、収納を集約したコアを配置し、その周囲に生まれる機能的従属性を抑えた空間、さらに外に生まれる3mの環状の庭、そして隣地へと敷地中央から放射状に連なる多重環状住居である。 工事中、クライアントとの定例打合せを終えるころ、ふと、娘が不在であることに気づき、探し回ると内部から死角の日の当たる南西の足場に横たわり読書に耽っている姿があった。あの時の娘のように、80坪の敷地の中で展開する生活は、まるで公園のなかで季節や時間によって表情を変える草花の美しさや陽だまりを発見し、自分の居場所を探り出すようである。